不動産売却の売買契約、そして残代金決済・所有権移転をするとき、売主は登記済権利証または登記識別情報(※)(以下「権利証」といいます)の他、必要書類を司法書士に預けて、買主への所有権移転登記を依頼します。
(※)登記済権利証と登記識別情報
この2つの権利証の違いは、発行する権利証を管轄している法務局がコンビューター化された出張所になる前か後で変わります。前に発行されたものが「登記済権利証」で、後に発行されたものが「登記識別情報」です。
司法書士はそれらの書類を法務局に提出して所有権移転登記の手続きをすると、後日買主には、新しい権利証ができ上がります。
残代金決済時に売主が持ってきた権利証は、権利のない抜けがらの権利証になりますので、これを空権利証とか空権(からけん)と言っています。
司法書士から「登記が完了しますと、売主様の権利証が戻ってきますが、権利は移転しているので、権利のない権利証になります。いかが致しますか?」と尋ねられます。
つまり、登記が終わって戻ってきた空権をAさんに送り返すか、司法書士がそのまま保管するかということを聞いてくるわけです。
必要あるのかないのか分からないけど、とりあえず「送り返して下さい」という方が多いような気がしますが、もらっても記念として取っておく程度のものなので、「必要ありません」という方も時々いらっしゃいます。その際は司法書士が一定期間保管をします。
ところがこの空権、実は完全に必要なくなったわけではなく希に必要になることがあって、私は2度経験しました。
たとえば、所有権移転登記に錯誤があった場合で、買主は不動産を単独名義で登記したけど、実はご夫婦の共有名義だった場合などです。この時は所有権更正登記などで、もう一度売主の協力が必要になります。
他にも、売買で売主から買主へ移転登記をした契約を、後日合意解除によって再び所有権を売主に戻す場合も必要になります。現在の所有権登記名義人が登記名義を得ることになった所有権移転登記を抹消するということで所有権抹消登記になりますので、この場合売主には新たに権利証が発行されず、すでに空権になった権利証が権利証として復活するのです。
また所有権が移転しても空権にならない場合もあります。例えば1筆の土地を2筆に分筆した後、そのうちの1筆を売却した場合です。分筆した場合には新たに権利証は発行されませんので、その権利証は空にはなりません。
このように、空権といっても必要になる場合もあるので、しばらくは保管しておいた方が良いと思います。しかしときどき見かけるのは、空権の所有者が亡くなって相続人がその空権を発見した時に、不動産を所有していると勘違いされることです。もっともこの場合は、法務局で登記を調べればすぐに分かりますことですが、少し紛らしいですね。
「登記識別情報通知」も「登記済権利証」と同様に、不動産売買登記などによって、新たに所有権(持分)を取得した場合に、所有権(持分)を取得した人に対して発行されるものですが、「登記済権利証」と違って「登記識別情報」というのは書類そのものではなく、そこにかかれたアルファベット、英数字による「情報」のことで、暗証番号やパスワードと同じように、その記号が重要になります。発行された時は、その部分にはシールが貼ってあり見ることはできません。ですから登記識別情報をお持ちの方は、シールを剥がさないで下さい。