使用貸借
今回は、土地や建物を借りる形に関する話題です。土地や建物を借りるというとまず思い浮かぶのは土地や建物の所有者(貸主)と契約を結んで、その対価として地代や家賃を支払って使用する「賃貸借」のことだと思います。
しかし同じように土地や建物を借りる場合でも、貸主と借主の関係が親子や兄弟、或いは会社とその会社の経営者など、貸主と借主との間に特別な人間関係や信頼関係がある場合には、借主は地代や家賃を支払わないで、更には契約書も取り交わさない口約束で使用する場合があります。
このように貸主と借主との間で地代や家賃の支払いをしないで、土地や建物の貸し借りを無償でする契約を「使用貸借契約」(しようたいしゃくけいやく:以下「使用貸借」)と言います。
使用貸借は不動産に限りません。たとえば親が子供に本や自動車を無償で貸して子供は本を読み終わったり、自動車を使い終わったら返す。これも使用貸借です。
使用貸借は2020年4月の民法改正で、それまで要物(ようぶつ)契約だったものが諾成(だくせい)契約に変わりました。
- 【要物契約】貸主・借主の合意の他に物の引渡しがあって初めて成立する契約
- 【諾成契約】貸主・借主の合意の意思表示だけで成立する契約
物の引渡しが成立の条件ではなくなったために、使用貸借の期間と、土地や建物の返還の時期が一致しない場合も生じてしまいます。そこで改正民法では使用貸借がいつ終わるのかということを定めました。
- 貸主・借主が契約期間を決めたときはその期間の満了した時
- 貸主・借主が契約期間を決めずに、使用や収益の目的を決めた時は、その使用や収益の目的が終わった時(ただし、その使用や収益が終わる前でも、使用や収益をするのに足りる期間が経過したときには、貸主は借主に返還請求することができます)
- 使用貸借は借主が亡くなった時(借主に相続が発生した場合、賃貸借契約では、相続人にその権利が引き継がれますが、使用貸借は相続されません。たとえ決められた期日が到来していなくても、目的が達成されていなくても、原則として借主が亡くなると契約が終了し、借りている土地や建物は貸主に返還しなければなりません。ただし借主が亡くなっても特約がある場合や引き続き相続人が使用していることを知りながら貸主が異議を述べなかった場合には、使用貸借が引き継がれる可能性もあるようです。
上記の項目にない場合、つまり貸主・借主が契約期間を決めないで、使用や収益の目的も決めなかった時は、貸主は借主にいつでも土地や建物の明け渡しを請求することができてしまいます。
不動産の賃貸借契約の場合、貸主が解除する際には相当の理由が必要なのですが、使用貸借には貸主が解除する場合には相当の理由は必要ありません。
契約を取り交わして地代や家賃を支払う賃貸借契約において適用される借地借家法は、土地や建物を無償で借りる使用貸借には適用されません。借主としての権利がとても弱いです。
始めに書きました通り、使用貸借は貸主と借主との間に特別な人間関係や信頼関係がある場合が多いので、万一その関係がこじれた場合や相続があった場合などは、トラブルになることも考えられます。
また使用貸借が弱い権利と言っても、貸主として権利を主張するために裁判所に申し立てをして調停や訴訟などをしなければならない場合もありますので、注意が必要です。
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編集後記
使用貸借が賃貸借契約と比べて非常に弱い契約であることが分かる事例としては、第三者(土地や建物の貸主が売却し、今までの貸主から譲渡された新しい貸主)への対抗要件があります。
現在借りている土地や建物を新しい貸主から、引き続き借り続けるための要件を備えていれば、新しい貸主から立ち退きを迫られても法律上、拒否することができます。
賃貸借契約の場合
【借地の場合】
- 土地に借地権の登記がされている(貸主が登記の承諾をしないことが多いです)
- 土地に借地権の登記がされていなくても、借地上に借地名義人の建物の登記がある(借地の名義が親で、建物の名義が子供の場合でも対抗できない場合があります)
【借家の場合】
- 賃借権の登記がされている(これも貸主は承諾しないことが多いです)
- 賃借権の登記がされていなくても、借家の引渡しを受けている
以上の要件を満たしていれば、新しい貸主に「この土地や建物を借りています」と主張することができますが、使用貸借には新しい貸主に対して、その権利を主張できる要件がありません。
新しい貸主から立ち退きを迫られたら、借主は借りている土地や建物を明け渡すことになってしまいます。