相続登記の義務化
住民票や戸籍謄本などで追跡調査をしても土地所有者を見つけだすことができない土地を所有者不明土地と言っていますが、その所有者不明土地が増えて、大きな問題になっていることがご存じの方も多いと思います。
民間の調査会社が試算した所有者不明土地の面積は、既に九州全体の面積(約368万ha)を超える約410万haに相当すると推定されています。所有者不明土地になる最も大きな原因は、相続登記がされていないことです。
相続登記は土地、建物やマンションなどの所有者を亡くなった方(被相続人)から、相続人の名義に変える手続きのことです。不動産の登記は相続が発生すると自動的に相続人の名義に代わるのではなく、法務局へ所有者の名義変更の申請をしなければなりません。亡くなった方の戸籍を遡って取らなければならないので手間がかかります。そのため多くの方は、司法書士に手続きを依頼するので費用も発生します。今まではこの相続登記は義務ではありませんでした。ですから所有者が亡くなっても、相続人が登記をしないで登記上そのままになっているケースが多く、現在の所有者(相続人)が分からないことが所有者不明土地が増える原因になっていました。そこでそれを解消するために
2024(令和6)年4月1日から、相続登記の義務化の法律が施行されます。
前回のトウリハウジング通信7月号で「既存不適格建築物」のことをご紹介した時に、新しい法律はその施行と同時に効力を発揮して、原則として将来に向かってのみ適用され、施行される以前のものには適用されない「法令不遡及の原則」があることを書きました。
しかし今回の相続登記の義務化については、過去の相続にも遡及して適用されます。
ですから、この法律が施行される前に亡くなった方の名義の不動産があった場合も相続登記をする義務が発生します。その義務というのは
この法律の施行される2024年4月1日または不動産を相続したことを知った日のどちらか遅い日から3年以内に相続登記をしなければならないというものです。そして「正当な理由」がないのに相続登記の義務に違反した場合には10万円以下の過料になる可能性があります。
しかし相続登記には相続人全員の合意が必要になります。相続登記を3年以内にしなければならないと言っても、相続人が複数いて、不動産の遺産分割協議に時間がかかってしまうと相続登記が3年以内にできないということも十分あり得ます。今回の改正では、そうなった場合のために、新たに「相続人申告登記」という制度ができます。相続人申告登記というのは
①不動産の登記名義人に相続が発生したこと
②相続人が判明していること
そして、自分が相続人であることを証明する戸籍を提出して、法務局に申告すれば他の相続人と一緒でなくても、登記簿に記載してもらうことができる制度です。
相続人申告登記をしておけば、3年以内に相続登記していない場合の罰則は免れることができます。ただし、この相続人申告登記はあくまでも上記①②を暫定的に証明するだけの制度で、不動産の登記名義人であることを証明できるわけではありません。ですから後日、遺産分割協議が成立して、正式な相続人が決まったときには、そこから3年以内に改めて相続登記をする必要があります。
また所有者不明土地が発生する原因として、もう一つ考えられるのが不動産を購入してから氏名・住所が変わった時に変更手続きをしないことです。住所変更の登記をしていない数は、謄本を見ていると結構多いです。
この氏名・住所の変更登記の申請の義務化は2026(令和8)年4月までに始まります。
氏名・住所の変更手続きも、施行日から2年以内に行わなければなりません。こちらも罰則があり「正当な理由」がないのに違反した場合には5万円以下の過料になる可能性があります。
相続登記の義務化、氏名・住所の変更登記の申請の義務化によって、所有者不明土地の問題が少しでも解消していければ良いと思います。
トウリハウジング特選物件
お子様へ贈る 今月のおすすめ絵本(読物)
ブラックホールってなんだろう?
文 嶺重 慎
絵 倉部 今日子
出版社 福音館書店
天の川銀河。広い宇宙の中で地球がある銀河系の名前です。今年の5月に天の川銀河にあるブラックホールの撮影に成功したというニュースがありました。ブラックホールは強い重力(引っ張る力)を持っていて、周りのものをなんでも引き寄せてしまう天体です。知っているようで知らないブラックホール。ブラックホールと銀河の関係など分かりやすく描いています。
編集後記
今年5月に司法書士・税理士の先生方と一緒に開催した「相続相談会」で多くの方にお越しいただいたので、8月にも土曜、日曜を利用して相続相談会を開催しました。
広告は前回とほぼ同じエリアに配布しているにも関わらず、今回もたくさんの方にお越しいただきました。広告には今回話題にした2024年に相続登記が義務化されることを載せたので「相続登記を忘れていた」という方が相談にいらっしゃると予想していたのですが、そのほかの相続に関するご相談もたくさんありました。
今回も前回同様、相続が発生する前の相続対策に関するご相談が多かったです。相続対策というと、相続税の節税対策とか、誰にどうやって財産を分配するかなど、たくさん財産がある人たちのことだとお考えかもしれませんが、財産の多寡とは関係なく相続対策の相談は多いです。それだけ、いつか訪れる相続に対して不安や悩みを抱えていらっしゃる方が多いということだと思います。
定例になりつつある相続相談会、次回は11月に開催する予定です。