時効取得とは、以下の民法第162条によります
【民法第162条 所有権の時効取得】
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第1項:20年間、所有の意思をもって、平穏かつ公然に他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
第2項:10年間、所有の意思をもって、平穏かつ公然に他人の不動産を占有した者が、その占有の開始の時に、善意にしてかつ過失がなかったときは、その不動産の所有権を取得する。
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ちょっと分かりにくいですが、時効取得の要件は以下の3点になります。
1.他人の物を占有すること
2.所有の意思を持った占有であること
3.平穏かつ公然であること
Cさんの家族とAさんが同意して申請を出せば、時効取得として所有権移転はできるかもしれません。
ただし、これについては問題があります。
まず、Aさんの主張によると底地買取り資金は自分が出したのだから、土地は自分のものということですが、時効取得となると他人の物を占有していなければならないので、Aさんは「土地はCさんのもの」と認めることになります。
そして所有権がAさんのものになるとしても、Cさんの建物が建っている敷地はAさんが占有していない土地なので、その部分については所有権は移転できないことになります。
これらを考えるとAさんはCさんの建物が建っている敷地部分も含めて、Aさんが購入したはずの土地すべての所有権を、Aさんのものにしようとするのであれば、時効取得は適していないと思います。
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「真正な登記名義の回復」
ここでもしAさんのご希望通りに登記をするなら『真正な登記名義の回復』が適していると思います。真正な登記名義の回復とは、登記された名義が間違っていたので、これを正しい名義にやり直す登記のことをいいます。
本来の正しい名義に変更する場合には、もう一つ『錯誤』による所有権更正という登記の方法もあります。
しかし、今回の例ではこの錯誤の登記は使えません。それは錯誤が「その登記自体が間違っていたから、登記を元の状態に戻す」時に使うからです。今回の例で言うと、この土地の登記の中にAさんの記載があって、間違えてCさんにしてしまったという場合ならできますが、登記されている中にはAさんが出てこないからです。
そこで「真正な登記名義の回復」が最も良い方法と考えたわけです。
ただし「時効取得」を使うにしても、「真正な登記名義の回復」を使うにしても、これらのことを税務署がどのように判断するか、が問題になると思います。例えばAさんが契約当時の売買契約書や領収証などによって、買取り資金を出したことを証明できるか。仮にAさんが買取り資金を出したことが明らかになったとしても、その資金はAさんが自分の所有権にするためではなくCさんに貸した、或いは贈与したとも考えられる可能性もあるので、数十年前の資金の流れを証明するのは、かなり難しくて、結局この問題は解決できませんでした。