今回は借地権に係る話題です。
借地権には「賃借権」の他に「地上権」も含まれますが、今回「借地権」は賃借権のことです。
借地権に係る法律は、平成4(1992)年8月に借地借家法(以下「新法」といいます)が施行されました。
これによって、それまで71年間(借地法は大正(1921)年に制定)適用されていた「借地法」(以下「旧法」といいます)は廃止されました。ですから1992年8月以降、新たに設定された借地はすべて新法が適用されることになります。
ところが、新法が施行されて旧法が廃止されたにもかかわらず、それまでに旧法で結ばれている土地賃貸借契約は契約更新された後も、さらに賃借人(土地を借りている人)が賃貸人(土地を貸している人)の承諾を得て、借地権を第三者に売却しても、その借地権は旧法のまま継承されるのです。つまり現在の借地権には2つの法律が適用されている状態になり、仮に旧法で締結されている契約を新法に切り替えるには、当事者間の合意が必要になるのです。
借地権というのは、「建物の所有を目的」とする土地の賃借権で、これについては新法も旧法も同じです。「建物の所有を目的」なので、例えば建物がない駐車場や農園などには借地権は存在しないはずです。
賃借人が賃貸人に対して「借地権がある」と言えるのは、土地賃貸借契約を締結して地代を支払っているからです。そして仮に賃貸人が亡くなって、相続が発生した場合でも、その相続人に対して賃借人は借地権があると言えます。
ところが、賃貸人が底地(借地権に対して賃貸人が所有している土地のこと)を他人(以下「第三者」といいます)に売却したり、競売や公売で所有者が変わってしまった場合、新たに底地を取得した第三者は原則として、賃貸人としての地位を引き継ぎませんので、借地権はなくなります。(第三者が借地権の存在を知っていて底地を購入した場合は、権利の濫用になる場合もあります)
借地権がなくなってしまいますので、第三者から見ると賃借人は「不法占有」していることになるので、「その土地を明け渡せ」と明渡請求される可能性が出てきます。
でもこれでは賃借人の立場はとても不安定になってしまいます。ですから第三者に対して「借地権がある」と言える何かが必要になります。これを「第三者への対抗要件」といいます。
日本では不動産に関する権利に変動があった時、登記をしなければその権利関係を第三者に対して「この不動産は私のもの」と主張することができない、対抗要件主義を取っています。
ということは借地権を第三者に主張するためには、賃貸人の土地に「賃借権」の登記をすれば良いことになります。
ところが、土地に賃借権の登記をするには、賃貸人の協力がなければなりませんが、賃貸人には協力する義務はありません。ですから実際には、賃借権の登記がされることはほとんどありません。
そこで、賃借権の登記がなくても、その土地の上に賃借人の登記の建物がある場合には、これをもって第三者に対して「借地権がある」ということができるとしています。
ここで注意しなければならないことは、第三者に対して「借地権がある」というためには、建物の登記名義が賃借人の名義になっていなければならない、ということです。
また、登記上は建物があったとしても、建物の滅失登記をしていないで、現地には建物が建っていない時なども「借地権がある」と言えません。
つまり「その借地上に建物が建っていること」と「その建物が賃借人の名義で登記されていること」の2つを満たすことが第三者に対抗できる要件なのです。
よくあるのは、契約上の賃借人が父親で、子供の名義で建物の登記していることですが、これは対抗要件がありません。それに賃貸人の承諾がないまま子供の名義の住宅を建てれば、極端なことを言えば借地契約を解除されてしまう可能性もあります。
親子間のことと思って、安易に考えていると問題が生じることがありますので、注意が必要です。